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2025.12.15 blog

胚の凍結・融解液によって妊娠率は変わるか?

2025年10月11日・12日に沖縄で開催された第28回日本IVF学会にて、当院は“胚の凍結・融解液の種類によって妊娠成績は変わるのか”というテーマで、院内データをもとに発表を行いました。
本日は、その内容をご紹介いたします。

胚の凍結・融解とは?

内容の前に、まずは凍結・融解液について少しご紹介します。
移植には下の2つの方法がありますが、

  • 凍結融解胚移植:採卵後に受精し発育した胚を一度凍結し、別周期で移植する方法
  • 凍結融解胚移植:採卵後に受精し発育した胚を一度凍結し、別周期で移植する方法

胚はマイナス196℃で大切に保管されます

体外受精により受精し、すくすくと育った胚は移植の日を迎えるまで、なんとマイナス196℃の液体窒素の中で凍結保存されます。
細胞は水分が多いため、そのまま凍らせると細胞内に氷の結晶ができて胚が壊れてしまいます。そこで胚を守るために使うのが凍結液です。
凍結液を使用して細胞膜の中にある水分を脱水させることで細胞内に氷晶(氷)が形成されるのを防ぎ、かつ凍結液には胚を保護する成分が含まれています。

移植前には丁寧に融解します

子宮内膜が胚を受け入れる準備が整ったら、移植する胚を融解(溶かすことを)していきます。
凍結の際に脱水する過程がありましたが、融解の際には細胞内の水分を戻していく過程が必要になります。この際に急激な水の流入は胚へのダメージとなるので、融解液を使用して段階的に回復させていきます。

このように、胚を守りながら凍結・融解するために「凍結液」と「融解液」は欠かせない存在です。

凍結・融解液には種類があります

現在、様々なメーカーから凍結・融解液が販売されていますが、成分が少しずつ異なります。使用する凍結・融解液を変更することで臨床成績が向上したとの報告がある一方で、臨床成績に差はないとの報告もあり、「どれが一番良いのか?」という点については、これまでのところ明確な答えがありません。
そこで当院では、使用する凍結・融解液によって臨床妊娠率に差が出るかどうかを院内データで比較しました。

当院での結果

2023.4~2025.4の期間に異なる3種類の凍結・融解液(A-NFA、A-FA、B:A社既存の融解液、A社新規融解液、B社:いずれも世界的に著名な企業であり、安心と安全が保障されており品質は最高なものとして知られています)を使用し、凍結融解胚盤胞移植を行いました。3,912症例、6,919周期について臨床妊娠率を比較しました。
結果は以下の表の通りで、臨床妊娠率はA-NFAの凍結・融解液を使用した群では45.4%、A-FAの凍結・融解液を使用した群では46.4%、Bの凍結・融解液を使用した群では50.8%となりました。
当院においては、Bの凍結・融解液を使用した群で臨床妊娠率は最も高い値を示しました。

A-NFA群 A–FA群 B群
周期数 3,661 1,340 1,918
年齢 36.3 (±4.2) 35.3 (±4.2) 36.1 (±4.2)
臨床妊娠率 45.4 46.4 50.8

現在、当院では最も良好な結果の凍結・融解液を使用しています
この検討結果を受けて、当院では現在Bの凍結・融解液を採用しています。世界の最高品質の凍結融解液であっても施設の環境によって成績が異なってくることがあります。医療は日々進化しており、田園都市レディースクリニックでは患者さんにとってより良い結果につながる方法を常に検討しています。
「一人でも多くの患者様に赤ちゃんを抱いていただきたい」
そのような思いから、使用する凍結・融解液一つをとってもこだわりを持って取り組んでおりますので、どうぞ安心して私達にあなたの大切な胚をお任せください。

監修医師紹介

河村 寿宏 医師・医学博士

河村 寿宏 医師・医学博士

田園都市レディースクリニック 理事長 / あざみ野本院 院長
東京医科歯科大学医学部臨床教授

「不妊に悩む患者さんの望みを叶えてあげたい」という思いをもとに、不妊治療のスペシャリストとして、高度生殖医療の分野で長年尽力。田園都市レディースクリニックでは、患者さま一人ひとりに寄り添いながら、高度な技術と豊富な経験に基づいた不妊治療を提供しています。

※本記事の監修に関して、学術的部分のみの監修となります。河村医師が特定の治療法や商品を推奨しているわけではありません。