体外受精 In vitro fertilization

体外受精とは

体外受精は、経腟超音波ガイド下に針を用いて卵巣から卵子を採取し、体外で精子と受精させ、受精卵を培養し、カテーテルを用いて子宮に戻す、という治療です。卵管性不妊、子宮内膜症合併、男性不妊症などに対し、通常の治療を行うも妊娠が成立しない場合や、一般不妊治療が無効な場合に実施されます。

体外受精の歴史と現状

体外受精胚移植は従来の不妊治療では妊娠できなかったご夫婦に対する画期的治療法として1978年にイギリスで開発された、40年以上の歴史を持つ不妊治療です。
日本でも1983年に最初の成功例が報告されて以来、現在まで推計77万人以上の生殖補助医療(体外受精胚移植や顕微授精、凍結胚移植)による新生児が誕生しています。
日本産科婦人科学会の報告によると、2020年には日本で45万周期以上の生殖補助医療が行われ、約6万人の新生児が生まれています。2020年に日本で生まれた新生児のうち、約14人に1人は生殖補助医療により妊娠、出産したことになります。

体外受精はどのような場合に行う?

体外受精が開発された当初は、卵管が詰まっていたりして卵子と精子が出会うことが出来ない場合に行われていましたが、その後精子が少なかったり運動率が悪い場合や、子宮内膜症がある場合、精子に対する抗体が出来てしまっている場合、原因不明の不妊症、高年齢女性、卵子の数が減ってしまっている場合、などにも用いられるようになってきました。

体外受精はどんな治療?

自然妊娠では、卵巣から排卵した卵子が卵管に取り込まれ、射精された精子が子宮から卵管に入ってきて卵管内で卵子と精子が出会って受精します。出来上がった受精卵は細胞分裂を繰り返しながら子宮に運ばれ、子宮内膜に着床して妊娠が成立します。
体外受精は、卵管内での卵子と精子が出会っていない、あるいは、出会っているけれど受精しない方に対して、体外で受精卵を作るという方法です。
具体的には、排卵誘発剤を使って卵胞を育て、経腟超音波で卵子が入っている卵胞を写しだし、卵胞を針で刺して中に入っている卵子を吸引して取り出し、体外で精子と受精させ(体外受精)、受精卵を培養し、子宮に戻します(胚移植)。

体外受精の設備や技術は?

当院の顕微授精は、 PVPという分子化合物を卵子の細胞質内に注入しない顕微授精 紡錘体可視化装置を用いて紡錘体の位置を確認しながらの顕微授精 超高倍率で精子を観察し、形態がより良い精子を選別して行う顕微授精(IMSI) を実施。より精度の高い顕微授精を行うことにより、高い受精率を維持しております。

胚の培養は、 全ての胚をタイムラプスインキュベーターで培養できる体制を整えております。

凍結胚の融解時には、 PZD法によるアシステッドハッチングを行い、胚への侵襲を抑え、高い妊娠率を出しております。

取り違えを完全に防ぐために培養室内での作業をダブルチェックで行うとともに、二次元コードを使用したART取り違え防止システムを採用しております。
採卵から胚移植や胚凍結まで、常時良好な環境で培養されるようにインキュベーターの24時間監視システム、インキュベーターの異常や液体窒素の重量に異常が発生した場合の警報システム、停電時の自家発電装置、蓄電池等、危機管理を可能な限り徹底的に行っております。

体外受精に副作用やリスクはある?

採卵前に使用する排卵誘発剤により卵巣が大きく腫れてしまう卵巣過剰刺激症候群(OHSS)が起こりえますが、当院ではこの副作用が起きないような卵巣刺激を主体としており、この副作用は当院では現在ほとんど発生しておりません。
採卵時の麻酔による副作用、採卵に伴う出血や感染も起こりえるものの、これらも極めてまれです。
複数胚を移植する場合には、多胎妊娠の発生が危惧されますが、当院ではほとんど全ての胚移植周期で1個のみの移植を行うことにより多胎妊娠を予防しております。一卵性双胎は体外受精では自然妊娠より発生率が上昇します。
異所性妊娠(子宮外妊娠)は、1-2%の頻度で起こることがあります。
先天異常については、頻度がやや上昇する、という報告もありますが、国内あるいは当院のデータでは、体外受精や顕微授精による先天異常の頻度は自然妊娠の場合と変わりません。

PGT-A(着床前胚染色体異数性検査)とは?

PGT-A(着床前胚染色体異数性検査)は、着床前診断の一つですが、体外受精や顕微授精後に胚盤胞まで成長した段階で、将来胎盤になる部分の細胞の一部を採取して染色体の数の異常の有無を調べる検査です。検査の結果、染色体の数が正常と判定された胚だけを移植します。
2020年1月から、日本産科婦人科学会によりPGT-Aの有用性に関する臨床研究が始まり、当院あざみ野本院も認定施設の一つとして、この検査を実施しています。
体外受精胚移植の反復不成功の方、流産を繰り返した方、染色体構造異常がある方がこの検査の対象となります。
PGT-Aにより、移植しても着床しない、あるいは妊娠しても流産してしまう染色体数の異常胚は、移植の対象から除かれるため、胚移植あたりの妊娠率の上昇と、妊娠あたりの流産率の低下が期待できるとともに、無駄な移植や流産に伴う精神的、肉体的負担を避け、妊娠までの期間を短縮できる可能性があります。
その一方で、検査に伴う胚へのダメージや、胚のモザイクの問題や検査で判定できない染色体の異常もあるなど、検査の精度が80-90%程度と完全ではなく、正常と判定されても児に異常が出たり、正常に生まれる可能性のある胚を移植に適切でないと判定される恐れもある、などの問題点もあります。