ブログ Clinic Blog

今回は受精の種類についてご紹介します。

まずは、正常受精とはどのような状態かお話しします。
正常受精かどうかは、前核と呼ばれる核の数で判断しています。前核とは、卵子由来、精子由来の遺伝情報を持っている核のことです。採卵の翌日に精子と卵子由来の前核がそれぞれ1つ、合計2つの前核が確認できた状態を正常受精としています。前核は英語で「pronucleus」と表記しますので、わたしたちは正常受精を2PN(2つのpronucleus)と表現します。
2PN以外の「前核が確認できない」「前核が1つしか観察できない」「前核が3つ以上みられる」場合には、異常受精と判断します。異常受精の場合は染色体異常の可能性が高いため(Laura Girardi et al. Incidence of haploidy and triploidy in trophectoderm biopsies of blastocysts derived from normally and abnormally fertilized oocytes. J Assist Reprod Genet. 2024 Dec;41(12):3357-3370.）、当院では培養終了とします。

次に異常受精とはどのようなものがあるのかと一般的な考えられる原因をお話しします。

0PN（前核が確認できない状態）

・受精していない
・顕微鏡下で観察をした時より前に前核が消失した
（当院ではタイムラプスを導入しているため、この可能性は極めて低いです。）

1PN（前核が1つだけ観察できている状態）

・卵子または精子由来のどちらかしか前核を形成できなかった
・卵子または精子由来の前核形成のタイミングのずれ
・2つの前核が融合して1つになった
・単為発生（精子が卵子の中に入っていなくとも卵子だけで核を形成してしまうという現象がまれに起こります）

3PN（前核が3つ観察できている状態）

・多数の精子が侵入して受精した
体外受精において起こりやすいと言われています。
例えば、2つの精子が受精すると卵子由来前核1つと精子由来前核2つの計3つの前核が形成されることになります。顕微授精の場合は1つの精子のみを卵子に入れるので体外受精に比べると出現頻度は低くなります。
・卵子側の極体放出不全
受精が起こると卵子は減数分裂を再開し、半数の染色体を含んだ第二極体と呼ばれるものを放出します。しかし、この第二極体がうまく放出できないと、卵子由来前核が2つ形成されてしまうことになります。

私達は当院での体外受精を実施時、受精確認をお電話にて確認できるシステムがあります。多くの患者様が受精確認のお電話にて、”異常受精“という言葉に戸惑いを覚え理解し難い状況となることがあります。そこで今回は受精の種類についてご説明をさせて頂きました。改めてお伝え致しますと、当院では、0PNや1PN、3PNといった異常受精胚は、胚盤胞形成の能力が低く、染色体異常胚となり易いため移植胚とはしておりません。

最後に当院ではどのように受精確認を行なっているのかお話しします。
当院ではタイムラプスインキュベーターと呼ばれる培養器を導入しています。タイムラプスインキュベーターとは、カメラが内蔵されているインキュベーターで、当院では15分に１回写真を撮影し、それをつなぎ合わせることで動画として観察できます。そのため、卵や胚をインキュベーターの外へ出さなくても観察ができるため、光への暴露や温度変化の影響などの卵へ負荷をかけずに受精確認を行うことができます。
タイムラプスインキュベーターを導入する前はラボワークの決まった時間の観察(定点観察)で卵や胚の状態を判断していましたが、タイムラプスインキュベーター導入後は動画としていつでも観察が可能となったため、成長過程を点ではなく流れで見ることができるようになりました。そのため、先ほど0PNのところでお話した「観察の時点より前に前核が消失した」といった現象もタイムラプスで観察することができるようになりました。
受精の判断は今後の培養継続に関わってくる大切な作業になります。タイムラプスインキュベーターを活用することで、患者様の大切な卵、胚（受精卵）をしっかりと観察しておりますので、ご安心ください。