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2025.09.25 blog

2個胚移植(Double Embryo Transfer:DET)について

今回は2個胚移植(Double Embryo Transfer:DET) について、先行論文も含めご紹介いたします。DETについては妊娠率の向上が期待されますが、一方で多胎妊娠とそれに伴うリスクが指摘されております。日本産婦人科学会の見解では、「生殖補助医療の胚移植において、移植する胚は原則として単一とする。ただし35歳以上の女性または2回以上続けて妊娠不成立であった女性などについては、2胚移植を許容する」とされております。

Is transferring a lower-quality embryo with a good-quality blastocyst detrimental to the likelihood of live birth?
Fertil Steril. 2020 Aug;114(2):338-345. doi: 10.1016/j.fertnstert.2020.03.027.

この論文では4640周期の新鮮胚移植症例を対象とし、良好胚盤胞の単一胚移植(Single Embryo Transfer:SET )と、良好胚盤胞1個+非良好胚1個のDETで臨床成績を検討しております。胚盤胞評価のGardner分類でAA、ABの胚盤胞を良好胚(good grade)とし、非良好胚は、fair grade(BA、BB、BC)、poor grade(CC、CB)、初期胚盤胞、桑実胚としております。結果は下記の通りとなります。

臨床成績

  • 単一胚盤胞移植と比較して2個胚移植の出産率は有意に高くなりました。一方で多胎妊娠率も有意に高くなりました。

次にDETにおける非良好胚のgrade別(桑実胚、初期胚盤胞、fair/poor胚盤胞)に検討しております。

DETにおける非良好胚のgrade別(桑実胚、初期胚盤胞、fair/poor胚盤胞)

  • 初期胚盤胞もしくはfair/poor胚盤胞を利用したDETでSETよりも出産率、多胎妊娠率が有意に高くなりました。

次に妻の年齢別(37歳以下群と38歳以上群)に比較しております。

妻の年齢別(37歳以下群と38歳以上群)に比較

  • 両群ともに出産率と多胎妊娠率はSETと比較してDETで有意に高くなりました。

Comparisons of benefits and risks of single embryo transfer versus double embryo transfer: a systematic review and meta-analysis
Reprod Biol Endocrinol. 2022 Jan 27;20(1):20. doi: 10.1186/s12958-022-00899-1.

この論文はDETについて書かれた11847本の論文を精査して、そのうち85本の論文の結果を再検討したものとなります。結果は下記の通りとなります。

DETについて書かれた11847本の論文を精査

DETについて書かれた11847本の論文を精査

  • 良好胚のSETと比較して良好胚のDETでは出産率、多胎妊娠率が有意に高くなりました。
  • 良好胚のSETと良好胚+非良好胚のDETでは出産率に差は認められませんでしたが、DETでは多胎妊娠率が有意に高くなりました。
  • 非良好胚のSETと比較して非良好胚のDETでは出産率、多胎妊娠率が有意に高くなりました。
  • DETでは出産時のリスクも有意に高くなりました。

以上より、DETはまたSETと比較して出産率が高くなることが期待されますが、多胎妊娠率も高くなるため、リスクを考慮して慎重に実施される必要があることが示されました。

尚、多胎の場合の問題点は、母体側では妊娠高血圧症候群、妊娠糖尿病を始めとする合併症が起きやすいことや、切迫早産になりやすいため妊娠中長期間の入院・安静、治療を余儀  なくされることが多いこと、頚管縫縮術、帝王切開術や産後の異常出血の頻度が高いこと、胎児側では、流早産のリスクが上昇し、胎児の発育遅延や低出生体重児の出生、先天異常が多く、新生児の死亡率が上昇することや、障害の発生の可能性を否定できないことです。

当院でも、多胎妊娠の場合の母児のリスクを考慮し、原則的には移植胚数は1個としております。しかしながら、胚移植が反復して不成功だった場合等では、2個胚移植(DET)を実施することもあります。

一方で、可能な限り多胎妊娠のリスクを避けるべき方、例えば、心臓病や腎臓病等の合併症をお持ちの方、過去に子宮自体への手術(帝王切開、子宮筋腫喀出術、円錐切除術、頚管縫縮術等)をされたことがある方、子宮筋腫や子宮腺筋症の合併症があり、かつ多胎妊娠の場合のリスクが非常に大きい場合、過去の妊娠時に子宮頚管無力症の既往がある場合、等は、妊娠中、分娩に際しての上記の母児のリスクを最小限にするために、原則的にあくまでも移植胚数は1個のみ、としております。

もちろん、ご夫婦が多胎妊娠を望まない場合は、移植胚数は1個のみとなります。ただし、一卵性双胎は、1個移植であっても、完全に避けることは出来ません。

詳しくは担当医師とご相談ください。
引き続き知見に基づいた治療を提供できるよう努めて参ります。

監修医師紹介

河村 寿宏 医師・医学博士

河村 寿宏 医師・医学博士

田園都市レディースクリニック 理事長 / あざみ野本院 院長
東京医科歯科大学医学部臨床教授

「不妊に悩む患者さんの望みを叶えてあげたい」という思いをもとに、不妊治療のスペシャリストとして、高度生殖医療の分野で長年尽力。田園都市レディースクリニックでは、患者さま一人ひとりに寄り添いながら、高度な技術と豊富な経験に基づいた不妊治療を提供しています。

※本記事の監修に関して、学術的部分のみの監修となります。河村医師が特定の治療法や商品を推奨しているわけではありません。