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2025.07.01 blog

ZyMotとは

今回はZyMotについて先行論文の報告も含めてご紹介いたします。

一般的に精子を調整する際は密度勾配遠心法という方法が使用されています。この方法は成熟精子と未成熟精子の核の密度差を利用して遠心分離により成熟精子を選別する方法です。しかしながら密度勾配遠心法では、遠心分離による物理的ダメージにより精子DNAが損傷することで低受精率や胚の発育不良、流産の原因の1つになり得ることが報告されています1)

ZyMotは、遠心分離を用いることなく特殊なフィルターによって精子の運動性を利用して良好な精子を選別する方法です。特殊なフィルターを用いることで、遠心分離を用いることなく運動性が低い精子や奇形精子と運動性が良好な正常精子を分離することが可能となります。一方で運動精子が極めて少ない症例には実施できないというデメリットもあります。

Impact of Microfluidic Sperm Sorting on Embryonic Euploidy in Infertile Patients with Sperm DNA Damage: A Retrospective Study ; Int J Fertil Steril, Vol 18, No 4, October-December 2024

この論文では167周期において密度勾配遠心法(DGC)を用いた周期(70周期)とZyMot(MSS)を用いた周期(97周期)において受精率やPGT-Aの結果を比較しております。またこの比較の前に事前の検査を行いDNA損傷率が低いNormal群と高いAltered群に分けて検討しております。結果は下記の通りとなります。

  • Altered群DGC法を用いた群で受精率は58.49%と有意に低い値となりました。また胚の正倍数性率もNormal群と比較して低い値となりました。
  • MSS群で胚の正倍数性率が有意に高くなり、若年齢群(<35歳)でその影響が大きくなりました。
  • しかしながら、今回の報告では臨床妊娠率まで検討しておらず、今後の課題として挙げられています。

以上からZyMotを使用することで受精率や胚発生、胚の正倍数性率を改善する可能性が考えられています。当院でも先進医療としてZyMotの施行が可能となります。症例によってはZyMotの使用ができない場合もございます。まずは担当医にご相談ください。

引き続き知見に基づいた最新の治療を提供できるように努めて参ります。

参考文献)
(1)Paternal effects on cell division in the human preimplantation embryo
Reprod Biomed Online 2005 Mar;10(3):370-5.doi: 10.1016/s1472-6483(10)61798-1.

監修医師紹介

河村 寿宏 医師・医学博士

河村 寿宏 医師・医学博士

田園都市レディースクリニック 理事長 / あざみ野本院 院長
東京医科歯科大学医学部臨床教授

「不妊に悩む患者さんの望みを叶えてあげたい」という思いをもとに、不妊治療のスペシャリストとして、高度生殖医療の分野で長年尽力。田園都市レディースクリニックでは、患者さま一人ひとりに寄り添いながら、高度な技術と豊富な経験に基づいた不妊治療を提供しています。

※本記事の監修に関して、学術的部分のみの監修となります。河村医師が特定の治療法や商品を推奨しているわけではありません。