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2025.05.31 blog

PICSI(Physiological intracytoplasmic sperm injection)とは

今回はPICSI(Physiological intracytoplasmic sperm injection)について先行論文の報告も含めご紹介いたします。

通常のICSIではDNA損傷率が低いとされている形態、運動性が良好な精子を選択して使用します。しかしながらこれらの精子は必ずしも成熟精子とは限らず、DNA損傷がある未熟な精子を顕微授精に用いてしまうことで、受精率や胚発生率が低下してしまう可能性が報告されています。自然妊娠の際に体内での受精やIVFにおいて、成熟精子は卵丘細胞間に存在するヒアルロン酸と結合して卵子と受精します。PICSIではこのヒアルロン酸と結合する成熟精子の特性を利用して生理学的に良好精子を選別します。

Conventional ICSI vs. physiological selection of spermatozoa for ICSI (picsi) in sibling oocytes Andrology. 2021 May;9(3):873-877.

この論文では反復不成功症例を対象に45周期をICSI(294個)とPICSI(257個)に分けて受精率、良好胚率、臨床妊娠率を検討しております。結果は下記の通りとなります。

  • 受精率はPICSI(82.8%)、ICSI(70.7%)、胚利用率はPICSI(51.1%)、ICSI(38.1%)となり、PICSIで有意に高くなった。
  • 臨床妊娠率はPICSI(31.8%)、ICSI(46.2%)で有意な差は認められなかった。

以上の結果から反復不成功症例においてPICSIとC-ICSIを比較した結果、受精率と胚利用率で改善が認められました。一方、臨床妊娠率に影響がなかったことについては患者背景を含めてさらなる検討が必要とされています。

Physiological, hyaluronan-selected intracytoplasmic sperm injection for infertility treatment (HABSelect): a parallel, two-group, randomised trial Lancet. 2019 Feb 2;393(10170):416-422.

この論文では2752症例をランダムにPICSI(1381症例)とICSI(1371症例)に分けて臨床成績を検討しております。結果は下記の通りとなります。

  • 臨床妊娠率はPICSI(35.2%)、ICSI(35.7%)で有意な差は認められなかった。
  • 流産率はPICSI(4.3%)、ICSI(7.0%)で有意に低くなった。

以上よりPICSIによって流産率の低下させる可能性が示唆されています。

このようにPICSIを施行することで受精率や胚培養の成績の向上、流産率の低下が期待されることから、当院でも先進医療としてPICSIの施行が可能となっております。

引き続き知見に基づいた最新の治療を提供できるよう努めて参ります。

監修医師紹介

河村 寿宏 医師・医学博士

河村 寿宏 医師・医学博士

田園都市レディースクリニック 理事長 / あざみ野本院 院長
東京医科歯科大学医学部臨床教授

「不妊に悩む患者さんの望みを叶えてあげたい」という思いをもとに、不妊治療のスペシャリストとして、高度生殖医療の分野で長年尽力。田園都市レディースクリニックでは、患者さま一人ひとりに寄り添いながら、高度な技術と豊富な経験に基づいた不妊治療を提供しています。

※本記事の監修に関して、学術的部分のみの監修となります。河村医師が特定の治療法や商品を推奨しているわけではありません。