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卵子紡錘体を確認することの有効性について②
当院では顕微授精(ICSI)をする際に全症例で紡錘体可視化装置を使用して、紡錘体の有無や位置を確認後にICSIを施行しております。このことにより、紡錘体を傷つけることなく、かつ適切な受精のタイミングでICSIをすることが可能となります。紡錘体を確認することの有効性について、前回のブログでは「紡錘体の位置」という内容で紹介いたしました。今回は「受精のタイミング」という内容で先行論文の報告を含めて紹介いたします。
Spindle imaging in human oocytes : the impact of the meiotic cell cycle
Vol 12.No4.2006 442-446 Reprductive Bio Medicine.
この論文では113個の卵子について、形態学的な卵子成熟評価と紡錘体の相関を調べています。はじめに第一極体の有無を確認したところ、113個のうち第一極体を持つ卵子は104個(形態学的成熟卵子)、残りの9個は第一極体を持たない未成熟卵子と評価されました。第一極体を持つ卵子104個において30分後、紡錘体可視化装置を使用して観察したところ、21個(20.2%)で紡錘体が確認できませんでした。さらに2時間後の観察では紡錘体が確認できなかった21個のうち11個で紡錘体が確認されました(下図)。
以上より、第一極体の有無による形態学的な評価において、第一極体を有し一般的に成熟卵子と評価される卵子の中には、紡錘体が確認できない、核が未成熟の状態にある卵子が含まれていることがわかりました。
次に、はじめの確認で第一極体を持たず、未成熟卵子と評価された9個のうち3個を、培養しながら紡錘体の状態を観察しています(下図)。まず、第一極体放出直後の紡錘体は第一極体と細胞膜にまたがった状態でした(B,C,D)。その後、紡錘体は再構築のために一度消失し(E)、第一極体放出後115-150分後に成熟卵子の紡錘体が観察されました(F)。
以上より、第一極体が確認できていても、紡錘体が第一極体と細胞膜にまたがっている状態、もしくは確認できない状態の卵子は核が未成熟であり、ICSIするタイミングとしては不適(早い)であると考えられています。
これらの知見から、当院ではICSIをする際に紡錘体の状態を確認し、タイミングとして不適と判断した場合は60-150分待ってからICSIを施行しております。このように紡錘体を確認することで、適切なタイミングで受精が可能となり受精率の改善が期待されます。
監修医師紹介

河村 寿宏 医師・医学博士
田園都市レディースクリニック 理事長 / あざみ野本院 院長
東京医科歯科大学医学部臨床教授
「不妊に悩む患者さんの望みを叶えてあげたい」という思いをもとに、不妊治療のスペシャリストとして、高度生殖医療の分野で長年尽力。田園都市レディースクリニックでは、患者さま一人ひとりに寄り添いながら、高度な技術と豊富な経験に基づいた不妊治療を提供しています。
※本記事の監修に関して、学術的部分のみの監修となります。河村医師が特定の治療法や商品を推奨しているわけではありません。