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2025.01.06 blog

ICSI時に卵子紡錘体を確認することの有効性について①

当院ではICSIする際に全症例で紡錘体可視化装置を使用して、紡錘体の有無や位置を確認後ICSIを施行しております。このことにより、紡錘体を傷つけることなく、かつ適切な受精のタイミングでICSIをすることが可能となります。紡錘体を確認することの有効性について、「紡錘体の位置」と「受精のタイミング」という内容で2回に分け、先行論文の報告を含め紹介いたします。

今回は「紡錘体の位置」を確認することの有効性についてご説明いたします。

一般的には成熟卵子の紡錘体は第一極体の直下に位置していると考えられています。そのため、紡錘体の損傷を避けるには精子を注入する際、第一極体を12時の方向にして卵子を保持し、3時の方向から精子を注入する方法が行われてきました。しかしながら、紡錘体は必ずしも第一極体付近に近接していないことが示され1)穿刺により紡錘体を損傷してしまう結果、受精率の低下や異常受精が生じる可能性が指摘されております。

LC-Polscopeによる卵子紡錘体観察の有用性 J.Mamm.Ova Res. Vol.25,105-110,2008.
この論文では第一極体を認め、かつ紡錘体が可視化できた340個の卵子において、第一極体と紡錘体の位置関係、受精率を調べています。結果は下記の通りです。

第一極体と紡錘体の位置関係、受精率

・約77%の卵子で第一極体付近に紡錘体が観察された。
・約19%の卵子で穿刺位置付近に紡錘体が観察された。

以上の結果より、必ずしも全ての卵子で紡錘体が第一極体直下にあるわけではなく、中には通常のICSI操作によって紡錘体が損傷する可能性がある卵子が存在することがわかりました。

次に患者同意のもと受精確認時に未受精だった卵子75個を用いて、紡錘体の物理的損傷が受精にどのような影響を与えるかを調べています。ICSI時に紡錘体を針で貫通させた穿刺群(25個)、紡錘体付近で細胞膜破膜操作を行った吸引処理群(25個)、紡錘体を避けた対照群(25個)に分け、前核形成について調べております。結果は下記の通りです。

受精確認時に未受精だった卵子75個を用いて、紡錘体の物理的損傷が受精にどのような影響を与えるか

・2前核形成率は対照群(72.2%)に比べ穿刺群(31.3%)、吸引処理群(18.8%)で有意に低かった。
・多前核形成率は穿刺群(68.7%)、吸引群(81.3%)で対照群(27.8%)に比べ有意に高かった。

以上の結果から紡錘体の位置を確認することで異常受精率を下げ、受精率を上げることが可能であることが示されました。
次回は「受精のタイミング」という内容で紡錘体を確認することの有効性についてご紹介いたします。

参考文献

1)The position of the metaphaseⅡ spindle cannot be predicted by the location of the first polar body in the human oocyte. Hum. Reprod.,15,1372-1376.

 

監修医師紹介

河村 寿宏 医師・医学博士

河村 寿宏 医師・医学博士

田園都市レディースクリニック 理事長 / あざみ野本院 院長
東京医科歯科大学医学部臨床教授

「不妊に悩む患者さんの望みを叶えてあげたい」という思いをもとに、不妊治療のスペシャリストとして、高度生殖医療の分野で長年尽力。田園都市レディースクリニックでは、患者さま一人ひとりに寄り添いながら、高度な技術と豊富な経験に基づいた不妊治療を提供しています。

※本記事の監修に関して、学術的部分のみの監修となります。河村医師が特定の治療法や商品を推奨しているわけではありません。