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SEET法について
先進医療の1つであるSEET(Stimulatiom of endometrium embryo transfer)法について2本の先行論文の報告を含めてご紹介いたします。
SEET法とは、胚盤胞から子宮内膜に対して着床を促すための胚由来の因子が放出されているという考えに基づき、胚盤胞培養に使用した培養液を凍結保存して、胚盤胞移植の2-3日前に子宮腔内に注入することで、子宮内膜を刺激して妊娠率の向上が期待されている方法です。
Stimulation of endometrium embryo transfer(SEET): injection of embryo culture supernatant into the uterine cavity before blastocyst transfer can improve implantation and pregnancy rates Fertility and Sterility 2007;88:1339-43.
最初に紹介する論文では31歳以上のART反復不成功48症例を対象としています。SEETを施行した群(SEET:23症例)、通常の凍結融解胚盤胞移植群(BT:25症例)について、移植あたりの妊娠率(Clinical pregnancy rate)と移植胚数あたりの着床率(Implantation rate)について検討しております。結果は下記の通りとなります。
・妊娠率はSEET群87.0%、BT群48.0%、着床率はSEET群71.9%、BT群37.8%となり、それぞれSEET群で有意に高くなりました。
着床前の胚盤胞からは子宮内膜に作用する様々な物質が生産されていることが報告されており(1,2)、これらは胚盤胞培養に使用した培養液中からも検出されています(3)。SEET法を用いることで、予め子宮内膜が刺激され着床への環境が整ったことで成績が改善されたと考察されています。
Stimulatiom of endometrium embryo transfer can improve implantation and pregnancy rates for patients undergoing assisted reproductive technology for the first time with a high-grade blastocyst Fertility and Sterility 2009;92:1264-8.
次の論文では初回ART周期の144症例を対象としています。移植した胚盤胞をHigh-gradeとLow-gradeに分け、それぞれにおいて通常の凍結融解胚盤胞移植群(BT)、胚培養に使用していない(未使用)培養液を注入後、凍結融解胚盤胞移植を施行した群(ST)、SEET法を施行した後、凍結融解胚盤胞移植を施行した群(SEET)について着床率(Implantation rate)と妊娠率(Clinical pregnancy rate)を比較検討しております。
結果は下記の通りとなります。
・High-grade 胚を移植した群ではSEET法を組み合わせたSEET群が他群と比較して、着床率(92%)や妊娠率(80%)が有意に高くなった。またST群でも着床率、妊娠率が高い傾向となった。
・Low-grade胚では有意差はなかった。
以上の結果より、SEET法はHigh-grade 胚を凍結融解胚盤胞移植した場合に有効であることが示されました。一方でLow-grade胚で有意差がなかったことは、そもそもLow-grade胚の妊娠率が低いこと、また子宮内膜と胚の成長のタイミングがずれている可能性があることが考察されております。またST群でも着床率、妊娠率が高い傾向があったことについては培養液の注入や注入の際のカテーテルによる子宮内膜への軽微な物理的刺激、培養液中の何らかの成分がSEET法と同様の作用をしたのではないかと考察されております。
これらの論文からSEET法を用いることで妊娠率、着床率の改善が期待されます。またグレードの良い胚と組み合わせることで、SEET法の効果をより引き出せる可能性が高くなることが示唆されました。
引き続き患者様にエビデンスに基づいた治療を提供できるよう、努めて参ります。
参考文献
- Expression of interleukin-1 system genes in human gametes. Biol Reprod 1998;59:1419-24.
- Variability in the expression of trophectodermal markers beta-human chorionic gonadotrophin,human leukocyte antigen-G and pregnancy specific beta-1 glycoprotein by the human blastocyst. Hum Reprod 1999;14:1852-8.
- Regulation of embryonic implantation. Eur J Obstet Gynecol Reprod Biol 2003;22;110:S2-9.
監修医師紹介

河村 寿宏 医師・医学博士
田園都市レディースクリニック 理事長 / あざみ野本院 院長
東京医科歯科大学医学部臨床教授
「不妊に悩む患者さんの望みを叶えてあげたい」という思いをもとに、不妊治療のスペシャリストとして、高度生殖医療の分野で長年尽力。田園都市レディースクリニックでは、患者さま一人ひとりに寄り添いながら、高度な技術と豊富な経験に基づいた不妊治療を提供しています。
※本記事の監修に関して、学術的部分のみの監修となります。河村医師が特定の治療法や商品を推奨しているわけではありません。