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2024.03.28 blog

卵子活性化処理は児の先天性異常に影響するのか

前回の記事では「受精障害症例における人為的卵子活性化処理の有効性の検討」という演題で、当院から日本卵子学会(2023年5月)で発表した内容について紹介いたしました。そこでは受精障害症例においてカルシウムイオノフォアによる人為的卵子活性化処理は受精率の改善に有効であることを示しました。

今回の記事ではカルシウムイオノファを含む人為的卵子活性化が児の先天性異常に影響するかどうかについて、先行論文の報告を含めて紹介を致します。

Risk of birth defects in children conceived by artificial oocyte activation and intracytoplasmic sperm injection: a meta analysis

Long et al.Reproductive Biology and Endocrinology(2020)18:123

この論文では通常のICSI(C-ICSI)と人為的卵子活性化(AOA)を併用したICSI(AOA-ICSI)で生まれた児の先天性異常率に差があるのかを、複数の研究結果を解析し、より総合的な評価をする方法で検討しています。

これまでにもAOAの安全性については多くの研究が行われてきました。その中にはAOAが児の先天性異常率に影響するという報告もありますが、AOAの適応は受精障害症例であるため、これらは限られた症例数をもとにした結果であることが多く、その影響を正確に評価するには各研究におけるサンプル数が少ないという問題点が挙げられていました。

そこで、今回紹介する論文は2020年までに報告されたAOAに関する論文76本から選定条件をクリアした5本を引用して解析を行ったレビュー(まとめ)論文となります。論文ではC-ICSI 5506症例、AOA-ICSI 316症例について検討しています。

結果は下記の通りとなります。

結果からAOAは児の先天性異常に影響しない、とされています。論文内の先天性異常率は3.4%(11/316)であり、一般的な先天性異常の発生頻度は3%程度といわれていることからもAOAは先天性異常に影響しないことが考えられます。

次に論文では先天性異常が認められた場合、その異常が染色体異常によるものかどうかについて検討しています。AOAは卵子の減数分裂再開時、つまり紡錘体が再構築されるタイミングで体外操作が行われます。そのために染色体異常の原因になり得るのではないかと指摘されているためです。結果は下記の通りとなります。

結果から、先天性異常が確認された場合、AOAは先天性異常のタイプ(染色体異常か非染色体異常か)に影響しない、とされています。

以上のことから、AOAは先天性異常に影響しないことが示されました。当院でも症例数は少ないですが、現時点で先天性異常は確認されておりません。ただし、先述したようにAOAに関しては症例数がまだまだ少ないため、今後も継続的な検討が必要となります。

引き続き最新の知見をもとに患者様により安全な治療が提供できるよう努めて参ります。