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2024.03.04 blog

受精障害症例における人為的卵子活性化処理の有効性の検討

2023年5月に開催された日本卵子学会にて「受精障害症例における人為的卵子活性化処理の有効性の検討」という演題で、当院から発表した内容について、ご紹介いたします。

ICSIを施行しても受精しない、もしくは受精率が低値を示す受精障害症例に対して、人為的卵子活性化処理を行うことで、受精率や胚発生の改善が期待されています。当院においても受精障害が疑われる症例に対し、カルシウムイオノフォアを用いた人為的卵子活性化処理を実施しております。

カルシウムイオノフォアの働きについて簡単にご説明いたします。通常、精子が卵子内に侵入すると卵子内のカルシウムイオン濃度が上昇し、波状に伝播していきます。これをカルシウムオシレーションと言います。このカルシウムオシレーションが起こることで、精子と卵子は受精に向かって変化していきます。

受精障害の原因の1つとして、このカルシウムオシレーションが起きない、もしくは不十分であることが考えられています。そこで、適切なタイミングでカルシウムイオノフォアを使用することで、卵子内のカルシウムイオン濃度を上昇させ、受精への変化を促進させる狙いがあります。

今回の検討では、ICSI施行後、受精率が低値を示した19症例を対象として、カルシウムイオノフォア使用しなかった周期(Ca(-)群)と使用した周期(Ca(+)群)に分けて成績を比較しました。結果ですが、正常受精率がCa(+)群で67.6%、Ca(-)群で20.6%となり、Ca(+)群で有意に高値となりました。またカルシウムイオノフォアを使用して得られた胚盤胞の凍結融解単一胚盤胞移植の臨床妊娠率は41.6%(5/12)で、児の先天性異常は認められておりません。

このことから、受精障害症例においてカルシウムイオノフォアによる人為的卵子活性化処理は有効であることが示唆されました。