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Reverse cleavageとは?
タイムラプスインキュベーターを用いた胚観察では、Reverse cleavage(RC)と呼ばれる異常分裂が観察されることがあります。RCとは、下図のように一度分裂した2つの細胞が融合する現象を指します。通常、受精後の胚が分裂していく過程では、細胞質の分裂とともに遺伝子を含んだ染色体の均等な分離が起こりますが、RCが生じた胚では、2つの細胞に分離された染色体が再び1つの細胞に戻ることとなり、染色体数に異常が生じる恐れがあります。今回の記事では、RCが培養成績および移植後の妊娠率に及ぼす影響について、先行研究の報告を交えながらご説明させていただきます。
紹介論文
Liu Y, Chapple V, Roberts P, Matson P. Prevalence, consequence, and significance of reverse cleavage by human embryos viewed with the use of the Embryoscope time-lapse video system. Fertil Steril 2014;102:1295-1300.
この研究では、2013年2月~12月の期間にオーストラリアの施設でIVFまたはICSIを施行した126周期が対象となっています。患者の平均年齢は34.8±4.5歳でした。合計789個の胚(IVF:353個、ICSI胚:436個)を、採卵3日後(Day3)までタイムラプスシステムで培養し、RC胚の培養成績および移植後の妊娠率について解析が行われました。
紹介論文の主要な結果は下記の通りとなります。
結果1.RC胚の培養成績
培養成績をRCの有無で比較した場合、
- Day3で6細胞以上に発育した胚の割合は、RC(-)胚と比較し、RC(+)胚で有意に低下しました(1% vs 47.7%)。
- Day3で良質な胚の割合は、RC(-)胚と比較し、RC(+)胚で有意に低下しました(8% vs 35.2%)。
- Day3で形態・動態的に良好な胚の割合は、RC(-)胚と比較し、RC(+)胚で有意に低下しました(4±1.3% vs 3.0±1.1%:スコアは1 が最高、4が最低)。
- 4 細胞期での多核形成率は、RC(-)胚と比較しRC(+)胚で有意に上昇しました(0% vs 10.1%)。
※通常は1細胞につき1個存在するはずの核が、2個以上存在する状態の胚を多核胚と言います。多核胚は、細胞分裂時の染色体分裂異常に起因すると考えられています。
結果2. RC胚の妊娠成績
Day3新鮮胚移植周期(121周期、153個の胚)が解析の対象とされました。
臨床妊娠率は、RC(-)胚と比較し、RC(+)胚で有意に低下しました(22.1% vs 0%)。
紹介論文では、RCが観察された胚の発生率および臨床妊娠率が大きく低下することが示されています。RCがなぜ起こるかについては完全には明らかになっていないものの、著者らは精子運動性の低下がこの現象に関与していることを示唆しています。また、この報告の中では、RC(+)胚の移植後の臨床妊娠率が0%(0/22)でした。では、RC胚は移植しても妊娠が見込めないのでしょうか?当院も含め、国内のいくつかの施設により、RC胚の移植後の成績が報告されています。これらの報告では、RC(+)胚であっても、良好胚盤胞まで到達すれば、正常胚と同等もしくはやや低い確率で妊娠に至ることが示されています。
当院でも、タイムラプスインキュベーター導入後、RCのチェックを行っており、移植胚選択の情報として活用しています。今後も、よりよい治療を提供できるよう、最新の知見を吸収し、診療に役立てていきたいと考えています。