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2021.11.17 blog

精液所見と抗酸化療法の関係について

加齢や生活習慣、疾患などにより酸化ストレスが増大してしまうと、体中の様々な細胞が傷ついてしまいます。近年では、こうした酸化ストレスへのアプローチとして、ポリフェノールやカロテノイドなどの抗酸化物質を多く含んだ食材や抗酸化サプリメントが注目されています。そこで今回の記事では、精液所見と抗酸化療法の関係についてお話をさせて頂きたいと思います。

精子を酸化ストレスから守るためには、
①過剰な活性酸素の生成を抑え酸化の力を弱める
②抗酸化物質を取り入れることにより過剰な活性酸素を取り除く
ことが重要と考えられます。
生活習慣の改善や疾患の治療は前者に該当しますが、抗酸化療法は後者の考え方をもとにした治療となります。現在では多くの抗酸化サプリメントや薬剤が販売されていますが、代表的なものとしては、ビタミンCやビタミンE、コエンザイムQ10などが挙げられます。

当院でも、研究の同意が得られた精液所見不良の方に対し、ビタミンE製剤(ユベラNソフトカプセル)を処方し、摂取前と摂取後3ヶ月での精液所見および精液中ORP(Oxidation-Reduction Potential)の比較を行いました。この研究結果については、国内の学術集会にて発表を行いました1)。解析の結果、精子の運動率と直線性はビタミンE摂取後に有意な上昇が認められました(図1)。また、精液中ORPはビタミンE摂取後に有意な変化が認められなかったものの、8/12症例で低下がみられました。他施設の研究でも、ビタミンC、ビタミンE、およびコエンザイムQ10の摂取により、精液パラメーターの一部が改善されたとの報告もあります2)。そのため、抗酸化療法は全ての症例に対してではないものの、一部の症例に対しては有効である可能性があります。

一方で、過度な抗酸化物質の摂取は“酸化”と“抗酸化”のバランスを抗酸化側に大きく傾けてしまいます。この状態は“還元ストレス状態”と呼ばれ、細胞にとって良くないことが知られています。精液中の“酸化”と“抗酸化”のバランスが抗酸化側に大きく傾いた場合、精液所見が低下するとの報告もあります3)。そのため、抗酸化療法に関しては医師の指導の下、適切に行われることが望ましいと考えられます。

引用文献

  1. 精液中酸化還元電位(ORP)測定により得られた知見
    名古満、有地あかね、大村直輝、小峰祝敏、向井直子、岩下由佳、飯塚千明、上田桃子、佐々木亜美、依光毅、佐々木博、清水康史、河村寿宏 、湯村寧
    第26回関東アンドロロジーカンファレンス(2018年)
  2. Kobori Y, Ota S, Sato R, Yagi H, Soh S, Arai G, Okada H. Antioxidant cosupplementation therapy with vitamin C, vitamin E, and coenzyme Q10 in patients with oligoasthenozoospermia. Arch Ital Urol Androl. 2014 Mar 28;86(1):1-4. doi: 10.4081/aiua.2014.1.1. PMID: 24704922.
  3. Panner Selvam MK, Agarwal A, Henkel R, Finelli R, Robert KA, Iovine C, Baskaran S. The effect of oxidative and reductive stress on semen parameters and functions of physiologically normal human spermatozoa. Free Radic Biol Med. 2020 May 20;152:375-385. doi: 10.1016/j.freeradbiomed.2020.03.008. Epub 2020 Mar 9. PMID: 32165282.