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2021.11.01 blog

精索静脈瘤と精液中ORPの関係

精索静脈瘤は、精巣から心臓に戻る静脈内の血液が逆流してしまい、精巣の周りに静脈の瘤(こぶ)が出来てしまう状態を指します(図1)。精索静脈瘤は決して珍しいものではなく、健常な一般成人男性でも約15%に見られますが1)、男性不妊症患者では約40%2) 、続発性不妊(二人目不妊)では約80%3)と高率に認められることから、精索静脈瘤と男性不妊症との関係が注目され、古くから治療対象とされてきました。多くの場合、自覚症状はありませんが、まれに症状として陰嚢の違和感や鈍痛を自覚することがあります。

精索静脈瘤が生じた場合、精巣内の血流変化や精巣内温度の上昇、精巣内酸化物質の増加、陰嚢内の性ホルモン濃度の変化などにより造精機能(精巣内で精子を造る機能)や精子の質の低下が起こり、不妊の原因になりうると考えられていますが、詳細なメカニズムについては明らかになっていない部分が多い現状にあります。

当院では、精索静脈瘤が精液環境を変化させることで精子の質を低下させているのではないかと考え、この部分について解析を行いました。図2と図3のデータは、当院が第153回関東生殖医学会(2019年)で発表した内容になります4)。この報告では、精液検査時に精液中ORPを測定した65症例を対象とし、WHOの定める精液所見基準を満たしていた25症例を正常所見群、精液所見不良で特発性(原因不明)と診断を受けた16症例を精索静脈瘤無群、精液所見不良で精索静脈瘤と診断を受けた24症例を精索静脈瘤有群とし、精液所見、精液中ORP 、ORP陽性率(精液中ORPが1.38以上の割合)を比較しています。その結果、正常所見群と比較し精索静脈瘤有群で精子濃度、運動率、総運動精子数の有意な低下がみられました。また、精液中ORPは三群間で有意差はみられなかったものの、精索静脈瘤有群で高値傾向にあり、ORP陽性率も正常所見群と比較し精索静脈瘤有群で有意に高い結果となりました。これらの結果から、精索静脈瘤は精液中の酸化ストレスを増大させることで精液所見低下を引き起こす可能性が示唆されました。

精索静脈瘤は様々なメカニズムを通じて造精機能や精子の質を低下させる恐れがありますが、現在は男性不妊症の原因の中で外科的に治療可能なものとして認められており、術後3ヶ月で精液所見が改善するとの報告もあります5),6)

当院では、土曜日に男性不妊専門の男性不妊外来を設けることで、女性不妊治療の専門医と男性不妊治療の専門医が連携し患者様の診療にあたっています。現在不妊症に悩まれている、または、不妊症ではないかと心配されている男性は早めの相談をおすすめします。

引用文献

  1. CampbellWalsh Urology9th Edition.
  2. Greenberg SH. Varicocele and male fertility. Fertil Steril. 1977 Jul;28(7):699-706. doi: 10.1016/s0015-0282(16)42669-5. PMID: 326581.
  3. Gorelick JI, Goldstein M. Loss of fertility in men with varicocele. Fertil Steril. 1993 Mar;59(3):613-6. PMID: 8458466.
  4. 精索静脈瘤と精液中酸化還元電位(ORP)の関係について
    名古 満, 有地 あかね, 村松 裕崇, 大村 直輝, 伊藤 かほり, 小峰 祝敏, 門前 志歩, 遠藤 美幸, 木寺 信之, 竹村 由里, 蓮井 美帆, 佐々木 博, 依光 毅, 己斐 秀樹, 大原 基弘, 清水 康史, 小堀 善友, 湯村 寧, 河村 寿宏
    第153回 関東生殖医学会 2019.
  5. Al Bakri A, Lo K, Grober E, Cassidy D, Cardoso JP, Jarvi K. Time for improvement in semen parameters after varicocelectomy. J Urol. 2012 Jan;187(1):227-31. doi: 10.1016/j.juro.2011.09.041. Epub 2011 Nov 17. PMID: 22100000.
  6. Fukuda T, Miyake H, Enatsu N, Matsushita K, Fujisawa M. Assessment of Time-dependent Changes in Semen Parameters in Infertile Men After Microsurgical Varicocelectomy. Urology. 2015 Jul;86(1):48-51. doi: 10.1016/j.urology.2015.04.014. PMID: 26142582.