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2021.09.30 blog

精液中ORPと精液所見の関係について

前回の記事ではORP(Oxidation-Reduction Potential)検査の概要についてご紹介させていただきましたので、今回は“精液中ORPと精液所見の関係”についてお話させていただきます。

精液中の酸化ストレスの程度が大きい場合、精子は損傷を受けてしまいます。酸化ストレスにより精子が損傷を受けやすい部位としては、細胞膜とDNAが挙げられ、細胞膜の損傷は、運動性低下や受精率低下を引き起こし、DNAの損傷は不妊や流産につながることが報告されています

では、新たな酸化ストレスの指標である“ORP”が高値の精液でも、精子の運動性低下やDNA損傷率の上昇が起こっているのでしょうか?

 

当院では、2017年11月より臨床研究としてORP検査を行っており、研究に同意いただいた患者様のデータを元に、精液中ORPと精液所見の関係について解析を進めて参りました。その結果、①精液中ORPと精子運動率は有意な負の相関があること(精液中ORPの上昇に伴い精子運動率が低下すること)2、②精液中ORP低値群と比較し、精液中ORP高値群では、DNA正常精子の割合が有意に減少し、DNA損傷精子の割合が有意に増加すること3、を明らかにし、国内の学術集会にて発表を行いました。これらの解析結果は、精液中ORPが精子運動性やDNA損傷率と強く関係していることを示しており、精液中ORP高値がこれらの精液所見低下の一因となる可能性を示唆しています。

現代の医学をもってしても、男性不妊の半数以上が原因不明とされていますが、酸化ストレスと精子の関わりについて更なる解析を進めて行くことで、原因不明と言われていた領域を減らせる可能性や、治療に対するオプションが増えていく可能性があります。

当院では、不妊に悩まれる方々に対し、より良い医療を提供できるよう、蓄積されたデータの解析にも力を入れ、治療に役立てたいと考えています。不妊治療をご夫婦で乗り越えていくための力になれるよう、スタッフ一同努めてまいります。

引用

  1. Tremellen K. Oxidative stress and male infertility–a clinical perspective. Hum Reprod Update. 2008 May-Jun;14(3):243-58. doi: 10.1093/humupd/dmn004. Epub 2008 Feb 14.PMID: 18281241.

 

  1. 原精液中酸化還元電位(ORP)と精液所見の関連について

名古 満, 佐々木 博, 有地 あかね, 大村 直輝, 小峰 祝敏, 向井 直子, 岩下 由佳, 飯塚 千明, 上田 桃子, 佐々木 亜美, 依光 毅, 清水 康史, 湯村 寧, 河村 寿宏

第36回日本受精着床学会総会・学術講演会(2018年)

 

  1. 精液中酸化還元電位(ORP)と精子DNA断片化率(DFI)の関係について

名古 満, 有地 あかね, 村松 裕崇, 大村 直輝, 伊藤 かほり, 小峰 祝敏, 名古 由佳, 倉本 桃子, 木寺 信之, 竹村 由里, 蓮井 美帆, 佐々木 博, 己斐 秀樹, 依光 毅, 清水 康史, 大原 基弘, 小堀 善友, 湯村 寧, 河村 寿宏

第65回日本生殖医学会学術講演会・総会(2020年)