ブログ Clinic Blog

2020.12.29 blog

生殖バイオロジー東京シンポジウム 『 男性不妊と酸化ストレス  』

当院が主催させていただいた生殖バイオロジー東京シンポジウムでご講演いただいた先生方のご講演の中で、一般の方にもわかりやすい臨床的な演題をピックアップしていくつかご紹介させていただいております。

今回は「男性不妊と酸化ストレス」という演題でご講演いただきました横浜市立大学附属市民総合医療センター副院長、

生殖医療センター泌尿器科准教授で、当院でも男性不妊外来をご担当いただいている湯村 寧先生のご講演をご紹介させていただきます。

今回のご講演では、当院が学会で発表した種々のデータもいくつかご使用いただきました。

 

不妊症の原因の半分は男性にもある、という認識は患者さんにも広く受け入れられつつあります。しかしながら、男性不妊の原因の半数はいまだに不明であり、診療では精液検査を主とする検査、内科的治療は経験則に基づいた内服治療が今も主体です。

酸化ストレスという現象は、生体内での活性酸素量とそれを消去する抗酸化物質のバランスが破綻し、活性酸素が増加することでもたらされる現象です。精液中の酸化ストレスは男性が妊娠する力に悪影響を与えることが知られており、いまや男性不妊の原因の一つとして定着しつつあります。

湯村先生らは、長年精液中の酸化ストレス(活性酸素)の研究をされてきました。従来は酸化ストレスの測定は煩雑で時間も要していましたが、酸化ストレスを測定できる新しい機器(MiOXSYS SystemTM)が開発され、現在はこれを用いて研究をされています。

酸化ストレスが高いと、精子運動性・自然妊娠率・顕微授精による良好胚到達率が低下し、DNA断片化率が上昇します。一方、酸化ストレスは薬剤や種々の方法(精液洗浄・抗酸化物質投与)で減少させることが可能であり、それにより精液所見が改善し、妊娠しやすくなることが期待されます。

さらに酸化ストレスに関するエビデンスが蓄積されていけば、今後酸化ストレス測定、抗酸化療法を取りいれた男性不妊診療が行われるようになり、原因不明と言われていた領域を減らせる可能性や、治療に対するオプションが増えていく可能性があります。

 

 

当院でも、酸化ストレスを測定できる上記機器を導入し、精液所見が不良の方を中心にご希望の方にこの検査を実施し、その結果に基づいて治療を行い、精液所見が改善する方が数多く見られます。