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2020.11.23 blog

生殖バイオロジー東京シンポジウム 『 着床不全のリスク因子とその治療後の妊娠成績 』

当院が主催させていただいた生殖バイオロジー東京シンポジウムでご講演いただいた先生方のご講演の中で、一般の方にもわかりやすい臨床的な演題をピックアップしていくつかご紹介させていただいております。

今回は「着床不全のリスク因子とその治療後の妊娠成績(OPTIMUM treatment strategy)」という演題でご講演いただきました杉山産婦人科新宿の黒田恵司先生のご講演をご紹介させていただきます。

 

良好胚移植を複数回行っても着床しない反復着床不全は、胚だけでなく子宮や母体に着床を妨げる原因が存在することがあります。反復着床障害の原因として主に、子宮内環境の異常、胚の発育と着床の窓のずれ、母体の免疫異常があげられます。

黒田先生らは、反復着床不全に対して、甲状腺機能、免疫機構、子宮内環境の精査や治療を、OPTIMUM(Optimization of Thyroid function, Immunity, and Uterine Milieu) treatment strategyと名付けて、治療をされてきました。

検査項目は、子宮鏡検査、子宮内膜組織のCD138免疫染色および子宮内細菌培養検査、血清Th1、Th2 細胞比、血清ビタミンD値、甲状腺刺激ホルモンと甲状腺ペルオキシダーゼ抗体です。

治療として、子宮内病変に子宮鏡手術、慢性子宮内膜炎に抗菌薬治療、Th1/Th2細胞比の異常高値にビタミンD補充およびタクロリムス投与、甲状腺機能異常に対して甲状腺専門医の精査および低下症にレボチロキシン投与、血栓性素因に対して着床時期を超えてから低用量アスピリンを処方しました。

OPTIMUM群、コントロール群それぞれの初回胚移植の妊娠継続率は、40歳未満でそれぞれ57.4%、21.4%、40歳以上で30.3%、0%と、OPTIMUM群で有意に高い数値でした。また、2回目移植後の累積妊娠率は、40歳未満、40歳以上それぞれで72.7%、45.5%であり、OPTIMUMは明らかに反復着床不全の女性の妊娠率を上昇させました。しかしながら、40歳以上の女性では2回移植以降も妊娠継続は半数未満であり、胚側の原因が妊娠継続率低下に関与していると思われ、将来的には着床前スクリーニングの併用を検討する必要がある、とされました。

 

 

2020年1月から、日本産科婦人科学会の特別臨床研究として着床前胚染色体異数性検査(PGT-A)が施設を限定しスタートしました。

当院もこの臨床研究の研究分担施設として認定され現在実施しており、反復着床不全が胚側の原因であると考えられる方に対して、正常な染色体本数の胚を10名の方に移植したところ、1回の胚移植あたり80.0%の臨床妊娠率が出ており、2020年11月時点で流産症例はゼロとなっています。

反復着床不全の方に対して、今回黒田先生がご発表された検査、治療で結果が出ない場合には、PGT-Aを実施すると、かなりの確率で妊娠継続できる可能性が出てきていると思います。