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2020.10.10 blog

生殖バイオロジー東京シンポジウム 『 PGT-A 』

今回から当院が主催させていただいた生殖バイオロジー東京シンポジウムでご講演いただいた先生方のご講演を紹介させていただきます。

この学会は、生殖領域の基礎医学から、臨床まで幅広い講演があり、一般不妊治療、体外受精をはじめとする生殖補助医療を行う施設にとっても、

患者さんにとっても役に立つ話題が満載の学会です。一般の方にもわかりやすい臨床的な演題をピックアップしていくつかご紹介させていただきたいと思います。

今年の学会では、PGT-A、アンチエイジング、着床、カレントトピックスについて全国のトップの先生方にご講演いただきました。

PGT-Aのセッションでは、まずIVF大阪クリニック院長の福田愛作先生に「PGT-Aの変遷と臨床的意義」という演題でご講演いただきました。

体外受精の生みの親であり2010年にノーベル医学生理学賞を受賞されたEdwards博士はすでに1960年代に胚の染色体分析を行い、

この技術が将来臨床的に役に立つことを予見されていました。

着床前診断(PGD,現在のPGT-M)は、当初は遺伝性の病気の有無を見つけるために、1990年代に開始されました。

この技術の延長線上に着床前スクリーニング(PGS:現在のPGT-A)という概念が生まれました。当初はこの検査は全ての染色体を検査できず、

また初期胚での検査であったことなどから、実施しても治療成績が悪く、むしろ有害と評価されました。

その後新しい検査技術が登場し(現在はNGSが最もよく用いられています)、全染色体分析が可能となり、PGT-Aが有効である、と言われてきています。

我が国ではPGT-M(PGD)は、日本産科婦人科学会で一例ずつ個別に承認された上で、登録施設で実施されています。

一方PGT-A(PGS)は、日本産科婦人科学会の着床前診断のPGDに関する見解で「遺伝情報の網羅的なスクリーニングを目的としない」となっていたこともあり、

実施がなかなかできませんでした。

しかし2014年にPGSに関する小委員会が設けられ、試験的に一部の施設で、少数の患者さんを対象に実施されました。

その結果、海外の成績と同様に、PGT-Aが有効である可能性が高くなり、

2020年から、基準を満たした施設(当院も神奈川県で最初に研究分担施設として承認されました)において、

適応を満たした患者さんを対象に臨床研究としてPGT-Aが実施可能となりました。

(詳しくはこちら ⇒ https://www.denentoshi-lady.com/in-vitro-fertilization/pgt-a/)

2020年6月時点で、全国で78施設が承認され、実際にPGT-Aを実施したのは当院を含め40施設です。

女性の年齢が37,8歳を超えると体外受精の妊娠率は急速に低下し、流産率は急上昇していきます。

年齢の上昇に伴い、卵子数は減少し、染色体異常の卵子の割合は上昇します。

この年齢上昇に伴う妊娠率の低下や流産率の上昇は胚の染色体異常の増加が主因であるため、PGT-Aの実施により胚の染色体異常の有無を確認し、

正常と判定された胚を移植することで妊娠までの時間の節約をすることが出来る可能性があります。

ただし、年齢層により有効性が異なったり、胚生検の際の胚へのダメージ、モザイク胚の取り扱いの問題も出てきています。

また、胚を直接生検しないで行うCell free DNA検査の有効性も検討されています。

米国生殖医学会では、現時点ではPGT-Aについて、生殖医療の選択肢として有用である、としています。

※NGS(next generation sequencer):次世代シーケンサー