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2020.01.17 blog

日本産科婦人科学会による、着床前診断(着床前胚染色体異数性検査=PGT-A)研究分担施設に承認されました

インフォメーション&ニュースでもお伝えいたしました通り、当院(あざみ野本院)は、令和元年12月27日に日本産科婦人科学会より
「反復体外受精・胚移植(ART)不成功例、習慣流産例(反復流産を含む)、染色体構造異常例を対象とした着床前胚染色体異数性検査(PGT-A)の有用性に関する多施設共同研究」の研究分担施設として承認されました。
PGT-Aは着床前診断の一つで、体外受精(顕微授精)によって得られた受精卵(今回は胚盤胞)の一部を取り出して染色体数を調べ、数の異常がない受精卵を子宮に戻す(胚移植)ことで、流産を減らし、胚移植あたりの妊娠率や出産率を高めることを目的としています。
日本での着床前診断は、重篤な遺伝性疾患に限って2004年に初めて実施が承認され、2006年には、染色体転座に起因する反復・習慣流産が着床前診断の審査対象に含められました。
日本では、年間4万人以上の赤ちゃんが体外受精により生まれてきていますが、諸外国に比して体外受精を行う方々の年齢が高く、反復して不成功になる方や、流産を繰り返す方が多いことがわかっています。その原因の大きな一つとして、受精卵の染色体異常、特に染色体の数の異常があります。染色体の数に異常があると、その受精卵は着床出来ない、あるいは、着床してもその多くは妊娠初期に流産となっていまします。このような方々の精神的、身体的な苦痛を減らす目的で、あらかじめ受精卵の染色体の数に異常が無いかどうかを検査(着床前診断)し、正常な数の受精卵を移植することで、妊娠率・分娩率を上昇させ、流産率を低下させる試みが提案されています。
日本では、着床前診断の中でも、染色体の数に異常がないかどうかを調べる着床前診断が日本産科婦人科学会により2014年から計画(この時点では、着床前スクリーニング=PGS、と呼ばれていました)され、2017年~2018年にかけて試験が実施されました。
着床前診断のパイロット試験の成績は、
【反復ART不成功】PGT-A実施群42例
移植あたり妊娠率70.8%(PGT-A非実施群では31.7%)流産率11.8%、
 実施あたり継続妊娠率35.7%(26.0%)でした。
【習慣流産】PGT-A実施群:41例
移植あたり妊娠率66.7%(29.7%)、流産率14.3%(20.0%)、
 実施あたり継続妊娠率26.8%(21.1%) でした。
尚、パイロット試験における妊娠例の一部は、2019年8月時点で、妊娠経過を追跡中であり、未だ分娩に至っていない症例が含まれているため、 最終的に児を得ることが出来たかどうかについての報告はこれからです。
限られた症例数のパイロット試験では得られなかった臨床的に重要と考えられる流産率や実施症例あたりの継続妊娠率に統計学的結論を得るために、必要症例数を定めて本試験を計画することとなりました。
今回、日本産科婦人科学会が実施する着床前診断(PGT-A)研究の対象は、日本産科婦人科学会の定めるART適応基準に合致し、              臨床研究の参加に配偶者と共に文書による同意の取得が可能な方で、
1)反復ART不成功:体外受精・胚移植実施中で、直近の胚移植で2回以上連続して臨床的妊娠が成立していない方
2)習慣流産(反復流産を含む):直近の妊娠で臨床的流産を2回以上反復し、流産時の臨床情報が得られている方
3)染色体構造異常:夫婦いずれかにリプロダクションに影響する染色体構造異常を有する方
となります。
重篤な合併症がある方や、医師が不適切と判断した方は、この研究に参加することが出来ません。
本研究の流れですが、参加を希望された場合は、研究対象者及びその配偶者の文書で同意を頂きます。同意取得に際しては、研究対象者ご夫婦へPGT-Aに関するカウンセリングの実施が必須となります。
体外受精のために卵巣を排卵誘発剤で刺激して卵子を回収し、胚盤胞期の栄養外胚葉から数細胞生検し、染色体の数に異常が無いかどうかを調べます。
患者さんに開示する情報は染色体の数的異常の有無と検出可能な染色体構造異常のみとし、それ以外の情報に関しては偶発的に見つかったことも含めて患者さんご本人のみならず、ご家族、そして生まれてくるお子様に対しても開示しないことになっています(性別も開示できません)。また、本試験において移植する胚は1個に限定されます。
PGT-Aの実施により、染色体数的異常のある胚を予め選択的に除外することにより、移植あたり妊娠率の上昇、流産率の低下が期待されます。
その一方で、胚生検時の胚への損傷がある検査であり、この損傷による着床不全、流産、その他の児への影響がある可能性は否定できません。
PGT-A判定の誤判定率は5~15%と報告されています。生検した一部に異常がなくても、移植する受精卵の全てに異常がないとは言えません。
また、反復流産患者の染色体異常のうち、3倍体、4倍体は15%を占めていますが、本試験において用いる解析方法では3倍体、4倍体の判定はできません。
さらに、反復流産患者の25%は胎児染色体正常流産です。したがって、判定が正しくても体外受精・胚移植が不成功に終わる、もしくは流産が起こり得る可能性が少なからずあります。
なお、PGT-Aを実施した場合に生児獲得率が低下するとの報告もなされており、このことからPGT-Aの実施により生児獲得率が低下する可能性は完全には否定できません。
解析結果が得られるまでの期間は凍結した胚を移植できないため数ヶ月の時間的負担が生じることも不利益となります。
この検査は、受精卵の染色体検査ですので、十分な遺伝カウンセリングや倫理的配慮を必要とし、慎重な対応が必要となります。
ご希望される方は、まずは担当医に直接ご相談ください。