卵子凍結 Egg Freezing

卵子凍結とは About

いずれは赤ちゃんが欲しいけれど、現時点では妊娠の予定が無い、あるいは妊娠が出来ない場合に、加齢に伴って卵子の数が減ったり、卵子の質が落ちたりする前に、年齢が若いうちに質の良い卵子を採取・凍結保存しておくことです。
将来、赤ちゃんが欲しいと思ったタイミングで凍結保存しておいた卵子を融解し精子と受精させることで、妊娠・出産出来る可能性を残しておくことができます。
卵子凍結には、社会的適応による卵子凍結(ノンメディカル)と医学的適応による卵子凍結があります。

対象となる方

1. 社会的適応では、以下のような方が卵子凍結の対象となります。

  • いつかは赤ちゃんが欲しいけど今はまだと考えている方
  • 妊娠を考えるパートナーがおらず、今は仕事を優先したい、あるいは種々の要因で今は妊娠が難しい
  • 将来出会うであろうパートナーのために、出来ることはやっておきたい(妊娠の可能性を残しておきたい)
  • パートナーはいるものの、すぐの妊娠は考えていない

2. 医学的適応では、悪性腫瘍などを患ってしまった方が、その治療を行うことによって卵子がダメージを受ける可能性があり、治療開始前の卵子の凍結保存をご本人が希望する場合です。

病気が完治して妊娠を望まれるときに、治療前に凍結保存しておいた卵子を使うことで妊娠が可能となります。

*パートナーがいる場合は、未受精の「卵子」で凍結するより、精子と受精させて「受精卵」の状態で凍結保存したほうがより高い妊娠率を期待できます。いずれは結婚する予定であるなら、精子と受精させて受精卵を凍結することが推奨されます。

対象年齢

当院での対象年齢20歳~39歳(卵子凍結時)

*融解使用時の年齢は45歳未満とし、凍結保存の延長も45歳未満です。

なぜ卵子凍結をするのか?

  • 加齢に伴う、卵子の「数」の減少と、「質」の低下、に対する対策のため
  • 将来妊娠できる可能性を高めるため
  • 将来に希望を残すため

卵子凍結する理由1. 卵子の「数」の減少について

女性の年齢と卵巣機能

女性の卵子は生まれる前の胎児期、お母さんのおなかの中にいる頃に作られ、生まれたあとは卵子は新たに作られることはありません。
このため、下のグラフに示される通り、卵子の数は加齢とともに減少していきます。
また、その方が年齢を重ねた分だけ、卵子も質が低下(卵子の老化)していきます。

女性の一生と卵子の数の変化
日本産科婦人科学会動画「ノンメディカルな卵子凍結をお考えの方へ」より引用

卵子凍結する理由2. 卵子の「質」の低下について

下のグラフは、米国から発表されたデータを示しています。
自分の卵子で体外受精を実施した場合は、年齢とともに出産率は低下していきます。
一方で、若い女性から卵子の提供を受けて体外受精をした場合は、提供された方の年齢が上昇しても出産率はほとんど低下しません。 このことは、出産率は、「卵子の年齢」で決まることを示しています。

女性の年齢別の出産率

女性の年齢別の出産率
Percentage of Embryo Transfers That Resulted in Live-Birth Delivery, by Patient Age and Egg or Embryo Source-United States, 2019
2019 Assisted Reproductive Technology Fertility Clinic and National Summary Report より

下のグラフに示されるように、体外受精(ART)を実施した場合の成績は、女性の加齢とともに低下していきます。1回の治療で出産できる確率は、30歳あたりから徐々に低下、30歳代半ばから低下が加速、40歳以上では急激に厳しくなります。

ART妊娠率・生産率・流産率 2022

ART妊娠率・生産率・流産率 2022
日本産科婦人科学会ARTデータブックより

通常の体外受精と何が違うか?

排卵誘発剤を使用して卵巣を刺激、卵胞を多数発育させて採卵するところまでは、同じです。
体外受精の場合は、採卵後間もなく精子と受精させて胚移植または胚凍結を行いますが、卵子凍結の場合は、採卵したら未授精のまま卵子を凍結します。

卵子凍結のメリット

より若い時の卵子を保存しておくことで将来的な妊娠の可能性を高められます。
高年齢になってからの卵子で懸念される染色体異常の確率も、若い時の卵子のほうが低いです。
万が一、がんその他、妊娠しにくくなる病気になった場合に備えて、現在の卵子を凍結保存しておくことで妊娠の可能性を残すことが出来ます。
妊娠する方法の選択肢を増やすことで気持ちに余裕ができ精神的な安定にもつながります。

卵子凍結のデメリット

卵子凍結は将来の妊娠・出産を約束するものではありません。必ず妊娠できるとは限らないことを最初に理解しておく必要があります。

排卵誘発剤により卵巣が過剰に腫れすぎて、腹痛があったり、腹水がたまる、血液が濃縮して血栓ができやすくなる、など、卵巣過剰刺激症候群と呼ばれる副作用が起きることがあります。

採卵に伴う痛み(麻酔をしますので多くの場合は大丈夫です)や出血、感染等の合併症、麻酔等による副作用リスクがあり得ます。

また、卵巣刺激をしても採卵まで至らない、採卵しても凍結するほどの卵子が得られない、凍結卵を融解後卵子が死滅する可能性、受精しなかったり、受精卵の分割が停止し、胚移植までたどり着けない可能性もあります。

妊娠時の年齢が高いと、高年齢妊娠、出産に伴う母児のリスクは上昇しますので、凍結卵子さえあれば何歳で妊娠しても大丈夫とまでは言えません。しかしながら、これは卵子凍結でない場合でもそのリスクは同じであり、卵子凍結の有無にかかわらず、高年齢になりすぎないうちの出産を考慮する必要はあります。

凍結する卵子数と将来出産出来る可能性

卵子凍結は将来の妊娠・出産を約束するものではありませんが、何歳の時に卵子を凍結するかによって、将来出産出来る確率はかなり異なってきます。
下記の表は、卵子凍結時の年齢別・卵子数別の、少なくとも一人の赤ちゃんを出産出来る確率を推測したものです。
凍結卵子数が増えれば、将来出産出来る確率は上昇しますが、卵子凍結時の年齢によってもかなり差があります。
この表に示されているとおり、凍結卵子が10個だと、卵子凍結が20歳台であれば8割程度の確率で出産でき、卵子凍結が30歳代後半だと5割程度、40歳になってからだと3割かそれ以下、となります。
凍結卵子が20個だと、卵子凍結が30歳半ばまでであれば9割程度の確率で出産できますが、30歳代後半になると8割を切り、40歳で5割程度となります。
年齢が上昇すると、かなり多数の卵子を凍結してあっても、出産まで至らない可能性も高くなります。

卵子凍結時年齢別・卵子数別の、少なくとも一人の赤ちゃんを出産出来る確率

凍結時年齢 10個 20個 30個 40個
28歳 80% 94%
34歳 75% 91% 95%
37歳 53% 75% 87% 92%
40歳 30% 52% 65% 76%
42歳 21% 36% 49% 60%
44歳 7% 15% 21% 26%
日本産科婦人科学会動画「ノンメディカルな卵子凍結をお考えの方へ」より引用
(参考文献) R H Goldman, et al.Hum Reprod. 2017 Apr 1;32(4):853-859.

治療の流れ

事前に健康状態をチェック

卵巣刺激

排卵誘発剤の内服または注射により複数個の卵胞を発育、成熟させます。超音波やホルモン検査で卵胞発育のモニタリングを行ないながら内服薬や注射の量を調節し、採卵日を決定します。

採卵

局所麻酔または静脈麻酔下で超音波を用いて卵巣の確認をしながら、腟から細い針を刺して卵子を吸引します。

卵子凍結

採取された卵子は凍結し、液体窒素中に保存します。

*卵巣刺激~採卵については、「当院の体外受精の流れ」のSTEP1(卵巣刺激)~STEP2(採卵)をご参照ください。

凍結卵子を使って妊娠を希望する場合

凍結卵子融解

液体窒素から凍結卵子を取り出し融解します。

精子と受精

顕微授精により卵子に精子を1個注入して受精させます。

受精卵培養

専用の培養器で受精卵(胚)を培養します。

胚移植

子宮の入り口からカテーテルを挿入し子宮内に胚を移植します。

  • 妊娠を希望される場合にはパートナーと同席の上で受診が必要です。
  • 婚姻関係の確認、事実婚の場合は戸籍抄本の確認及び出生児の認知の意思の確認ならびに署名が必要です。
  • 医師より凍結卵子融解から受精~胚移植~妊娠判定までの流れをパートナーと同席の上再度説明させていただきます。そのうえでカップルお二人の同意を得て治療を行います。

期待される妊娠・出産率

胚盤胞まで培養し胚移植が出来た場合の妊娠率は、卵子凍結時の年齢によりますが、30歳未満で60数%、30歳代前半で60%弱、35-37歳で50%強、38-39歳で45%程度、となります。
出産率は、卵子凍結時の年齢で、30歳未満で55%前後、30歳代前半で 50%弱、35-37歳で40%程度、38-39歳で30%強、となります。

当院の採卵・凍結・胚移植の実績

不妊治療のために実施したものが主体となりますが、
過去10年間(2015年~2024年)の当院両院合計の実績は以下の通りです。
採卵:31,137周期、 卵子・胚凍結:18,926周期、 胚移植:30,854周期

費用について

*保険適用外のため、自費での治療となります。

卵子凍結パッケージ 360,000円
(税込396,000円)

パッケージに含まれる内容

排卵誘発剤(経口、注射)、局所麻酔費用、採卵費用、凍結費用、初年度保管費用

*2回目以降の採卵周期は、パッケージ費用 300,000円(税込330,000円)に減額とな ります。
*凍結する卵子の数によって変わることはありません。 *卵巣刺激を行っても卵胞が育たない等で採卵に至らなかった場合は、パッケージ費用は発生せず、それまで実施した診察、検査、薬剤などの実費用のみを当院自費費用に照らし合わせていただきます。
*採卵したが凍結できる卵子が採取できなかった場合は、パッケージ費用より10万円の減額となります。(税込286,000円)

パッケージとは別に以下の費用がかかります。

初診卵子凍結相談料(カウンセリング含む) 5,000円
(税込5,500円)

基本検査費用

クラミジア検査 3,000円
梅毒 1,500円
B型肝炎 1,000円
C型肝炎 2,500円
HIV抗体 2,500円
風疹抗体 1,500円
AMH 6,000円
ビタミンD 2,600円
血算 500円
凝固機能 1,500円
エコー検査 2,000円
腟分泌物培養検査 3,000円
合計 27,600円
(税込30,360円)
静脈麻酔 45,000円
(税込49,500円)

2年目以降保管料

凍結個数 費用
1-3個 27,000円
(税込29,700円)
4-6個 54,000円
(税込59,400円)
7-9個 81,000円
(税込89,100円)

以降3個毎に10,000円(税込11,000円)

(例)

10-12個:91,000円(税込100,100円)
13-15個:101,000円(税込111,100円)

上記保管延長費用は、1回の採卵周期についてかかる費用です。採卵が複数回になる場合は、各々の採卵回毎の保管料がかかります。2回目以降の採卵周期の保管料については、上記と同様です。