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体外受精の設備・技術

当院のICSIについて

当院では、顕微授精を行う際、多くの施設が使用しているPVP(ポリビニルピロリドン)という分子化合物を使用しない方法を採用しています。PVPを使用すると高速で運動している精子の動きがゆるやかになり、顕微授精の針や顕微授精操作用のディッシュに精子が付きにくくなるため、顕微授精の操作がしやすくなります。
しかしながら、PVPを使用した顕微授精では、微量ではありますが精子とともにPVPも卵子細胞質のなかに注入されることになります。PVPが卵子細胞質内に入ることが安全かどうかは、まだ明らかになっていません。
そのため、PVPを使用せずにICSIを行おうとすると高度な技術が必要となります。当院では胚培養士が日々訓練を重ね技術の習得に努め、これを実現させています。そして顕微授精の高い受精率を維持しています。

当院のICSIについて
当院のICSIについて

紡錘体可視化装置について

顕微授精は通常、卵子の第一極体を12時、または6時の方向に保持し、3時の方向から微細な針で精子を注入します。これは、第一極体の直下に紡錘体とよばれる染色体を含む重要な構造物が存在していることが多く(図1)、なるべく傷つけないようにするためです。しかし実際は、紡錘体が第一極体から離れて存在することもあり(図2)、第一極体の位置確認だけでは、顕微授精を行う際に紡錘体を傷つけてしまう恐れがあります。

そこで当院では、IX-Robopolar (紡錘体可視化装置)による顕微授精を行っております。IX-Robopolarは、肉眼では見る事の出来ない紡錘体の位置を確認しながら、傷つけないように顕微授精を行うことが可能です。
また、紡錘体が観察できない場合、卵子が成熟していない場合があるため、時間をおいて再度観察し、卵子の成熟を確認してからICSIを行います。これにより、受精率をより高めることが期待できます。

紡錘体可視化装置について
図1
紡錘体可視化装置について
図2

IMSIについて

IMSI(Intracytoplasmic morphyologically selected sperm injection)とは、超高倍率で精子を観察し、形態が良好な精子を選別し顕微授精(ICSI)に用いる方法です。
通常のICSIでは最大400倍に拡大して精子を選びますが、IMSIを用いることで、600倍から最大1200倍にまで拡大して精子を見ることができます(図1)。これにより、精子の形態(頭部の空胞や頸部・尾部の異常など)をより正確に行うことができます。

図1
IMSIについて

例えば、図2のように精子頸部に細胞質小滴と呼ばれるものが残存している精子がありますが、IMSIを用いることで、より鮮明に細胞質小滴を確認することができます。本来、細胞質小滴は産生されたばかりの未熟な精子の頸部から中片部にかけて存在し、機能的に成熟した精子は細胞質小滴を消失している(1)。つまり、細胞質小滴が頸部に留まっている精子は未熟であるため、ICSIへは選択すべきではないと考えられます。

図2
IMSIについて

また、図3のように頭部に空胞のある精子が多く見られます。空胞については様々な見解があり、「大型の空胞様構造を有する異常精子の染色体異常率は正常精子比べて差はなく、また大型の空胞様構造と精子染色体異常の関連性は認められなかった」という報告がある(2)一方で、「核空胞の存在、正常な精子形成過程において本来排除されるべき精子細胞成分(細胞質成分)が何らかの理由で成熟精子にまで残存していることは精子形成が異常であることを意味しており、この残存した細胞質成分が活性酸素の産生源となり、精子に過剰なストレスを与え、結果的にDNA損傷を生じる可能性がある」という報告もされております(1)(3)。

さらに、精子頭部空胞の形態と精子のゲノム安定性について調査した文献によると、「空胞が頭部後方部の核部分や赤道面に位置するか、空胞の深さが深いような精子はDNAの安定性が低い、つまり空胞の大きさや数よりも、その位置や深さが重要であるということが示唆された」といった報告もされております(4)。以上のことからも、IMSIを用いて、より詳細に精子頭部の空胞を見ることは重要であると思われます。

図3
IMSIについて

このように、IMSIの臨床への有用性については様々な見解がありますが、精子の形態を詳細に見ることができるという観点からも、ICSIを行うにあたっての重要な技術の1つであると考えられます。

(1)ヒト精子の超微形態と妊孕性
J.Mamm.Ova Res. Vol.25,232-239,2008
(2)強拡大下で観察される精子頭部空胞様構造と染色体異常の関連性
J.Mamm.Ova Res. Vol.25,240-245,2008
(3)Cis-unsaturated fatty acids stimulate reactive oxygen species generation and lipid peroxidation in human spermatozoa.J.Clin.Endocrinol.Metab.,91,4154-4163.
(4)The significance of human spermatozoa vacuoles can be elucidated by a novel procedure of array comparative genomic hybridization.
Human Reproduction,33(4),pp.563-571.2018.

ART取り違え防止システムについて

体外受精をはじめとする生殖補助医療(ART:Assisted Reproductive Technology)では取り違えは絶対に起きてはならないことです。
当院では患者さまからお預かりした大事な配偶子(卵子・精子)、受精卵に取り違えが起こりえないシステムを構築しております。配偶子を入れる容器、受精卵を培養する容器にはお名前、IDを記入し、精子調整や胚操作を行う際には二人体制でチェックをし、指差し、声出しでダブルチェックを行っております。

ART取り違え防止システム
ART取り違え防止システム

作業を行う際には、一つのブースにつき一人の培養士が責任を持って作業を行うことで、複数の患者さまの検体が交わることは絶対に起こりません。
また、あらゆる作業はもう一人の培養士が必ずダブルチェックを行います。また、患者さまご自身にも採卵や移植の入室の際には自らお名前を言っていただき確認を確実なものとしております。さらに当院では二次元コードを使用した取り違え防止システムを使用しております。

二次元コードは患者さまのお名前・IDの情報が入力されており、診察時、採卵時、精液提出時、体外受精、胚移植に至るまですべての段階で認証を行っています。万が一、二次元コードの内容が間違えているとそこから先の作業へは進めなくなっております。また、認証の履歴はすべてコンピューター上に記録されており、作業履歴として後から確認もできるようになっています。

培養室危機管理にシステムについて

培養室QC(Quality Control)の維持は安定した培養成績、また安全な培養環境維持には非常に重要になります。当院で取り組んでいる培養室QCに関してその一部を紹介致します。

①インキュベーター管理

インキュベーターは大切な胚を育てる重要な場所です。その為24時間庫内温度、庫内ガス濃度は設定値を維持できるよう調整されており、その値はインキュベーターに表示されています。
それら機能に加え当院では毎朝、全てのインキュベーターのガス濃度を専用の測定機械で実際に測定し確認をしています。
また温度に関しても定期的に測定をしています。表示値と測定値にずれがないか、許容範囲内の測定値であるか等しっかりとした庫内環境を把握し安定した培養環境を徹底して維持しています。万が一ガスボンベからの供給が止まってしまった場合でも、予備ガスボンベに切り替わるレギュレーターを装着し、安定的にガスが供給されるようにしています。

図1:測定の様子
図1:測定の様子
図1:専用のガス測定機
図1:専用のガス測定機

②液体窒素タンク管理

凍結された胚や精子は専用の凍結保存用の液体窒素タンク内で保管をしています。タンク内の液体窒素は常に満タン量で維持しています。またこのタンクには重量計が備えつけてあり、警報システムと連動しているため、何らかの理由でタンク内液体窒素残量が設定以下になった場合や停電等警報システムとの通信エラーが生じた場合といったタンクトラブルが一瞬でも起きた時点で警報メールが送信されるよう設定しています。
また重量計でのタンク内液体窒素量の把握以外にもタンク内液体窒素の充填高を直接測定する事でより確実にタンク内液体窒素残量の把握に努めています。
予備の液体窒素の確保および購入先メーカーの複数把握もしており、いかなる場合でも液体窒素が枯渇しないよう準備、対応しています。

図3:地震等による転倒防止の為の厳重な保管場所
図3:地震等による転倒防止の為の厳重な保管場所
図3:タンク内液体窒素残量の充填高での残量確認
図3:タンク内液体窒素残量の充填高での残量確認
図3:予備用液体窒素を常に確保
図3:予備用液体窒素を常に確保

③培養液管理

培養液は胚の発育にとって非常に重要であり、インキュベーター管理と同様に培養液管理も大切です。当院で使用している培養液に関しては各販売メーカーで非常に厳しい検査(pH試験、浸透圧試験、エンドトキシン測定、マウス胚発生試験、無菌試験、POV(過酸化物価)測定、見た目や濁り、色調チェック等)および外部業者による委託検査の実施をクリアした培養液のみの出荷をお願いしております。
また当院で実際に使用する前にはLOT毎の浸透圧測定や、実際に使用している培養液によるpH測定を定期的に行い、培養液を使用する直前まで培養液品質の管理把握を徹底しています。

図2:pH測定器
図2:pH測定器
図2:浸透圧測定器(測定中)
図2:浸透圧測定器(測定中)

④危機管理

培養室内の機器類のトラブル及び異常気象、地震、停電等未曾有の出来事に対する不測の事態に関して当院では出来るだけ対応するべく危機管理に対するインフラおよびシステムを整備しています。

定期的な防災チェックと危機管理マニュアルの確認、修正
毎月防災チェック日を決め、普段の清掃以上に念入りに行う清掃や配線、断線の危険性チェック、懐中電灯の光量チェック(電池残量)、消火器チェック、物の配置や転倒落下物の危険性チェック等を行っています。
また培養部には専用の危機管理マニュアルがあり、それらマニュアルも再読し確認する習慣をつける事でいざという状況でも適切な指示および指示に従っての行動が各々とれるよう努めています。この危機管理マニュアルは必ず年に一回は改良の必要性、項目の追加がないかどうか等培養スタッフで話し合い、実際のシミュレーションや状況をイメージした意見交換をする事で常に最善のマニュアルになるよう改良を加え日々更新し続けています。

警報システム
培養室を不在にする際には必ず警報システムを稼働させています。例えばインキュベーター内のガスや温度が設定値範囲を一定時間外れた場合に培養スタッフに警報メールが送信されます。また毎日定時にインキュベーター内温度、ガス濃度情報および、液体窒素タンク重量情報がメールで届きます。24時間異常が起きた際には対応出来るようにしています。

図3:定時メール
図3:定時メール
図3:警報装置画面
図3:警報装置画面
図3:警報装置画面
図3:警報装置画面

また、大型自家発電機および蓄電池を整備していますので万一の停電に対しても培養室、OPE室内への電力供給が直ぐに断絶される心配はありません。

図4:大型自家発電機
図4:大型自家発電機
図4:蓄電池
図4:蓄電池

タイムラプスインキュベーターについて

タイムラプスとは一定間隔で連続撮影した静止画を繋ぎ合わせることで長時間の事象の変化を短時間で表現できる機能であり、現在ではスマホ等でも使用可能な技術です。
この機能を搭載したカメラを内蔵したインキュベーターがタイムラプスインキュベーターになります。当院でもこのインキュベーターを導入し、胚観察で特に重要な受精判断の正確性向上および、近年非常に重要視されてきている第一分割様式の把握とその後の初期胚発生変化の観察を大きな目的とし使用を開始しました。以下その特徴とメリットを紹介致します。

図4:大型自家発電機
図4:蓄電池
図1:当院での使用しているタイムラプスインキュベーター(CCM-iBIS:ASTEC社製)

① 胚をインキュベーター外に取り出さなくても観察可能であり、胚に対する侵襲性が小さくなります

通常の胚観察方法はインキュベーターから胚を取り出して行うため、光や温度、培養液pH変化等胚にとって不要なストレスを与える可能性があります。一方このタイムラプスインキュベーターは内蔵カメラでの連続撮影機能により行うため、インキュベーター外に胚を取り出すことなく胚観察ができるので胚へのストレスが軽減されます。
また連続撮影時のカメラ照射光自体は光強度が特に低い赤色LED(波長:616nm)を使用しているため長時間での連続撮影であってもインキュベーター外での作業と比較し、はるかに影響も小さくなります。

② 継時的な胚観察が可能となり、胚発育中の細かい変化を観察でき、より良好な胚を選定する事が可能になります。

通常の観察方法は一日の中で決まった時間に行うため、さまざまな変化をして発育をしている胚のたった一瞬の形態状態での観察判断となり、どのような状況で発育をしてきたか等明確な発育過程の把握が困難です。しかしタイムラプス機能を利用する事で継時的な胚の発育状況を把握する事が可能となり、正確な受精様式の把握(前核出現、消失のタイミング)、分割状況、胚発育スピード、また細かい胚発育中での胚の変化をインキュベーター外に取り出して観察する事無く確実に行う事ができ、より正確な受精判断および良好な発育状況の胚を選別する事ができます。

アシステッドハッチングについて

図1:胚盤胞(-----:透明帯)
図1:胚盤胞(-----:透明帯)

胚は透明帯という殻の中で発育をします。そして胚は何回もの細胞分裂を繰り返す事でサイズが大きく拡張し、子宮に着床する頃にはこの最終的に透明帯を自分の力で破り透明帯外へ脱出(Hatching)をします。しかし特に凍結保存を行った胚では透明帯が硬化する事が報告されており、透明帯硬化によるHatching障害が示唆されています。Hatchingできなければ着床はできず、またHatchingに時間がかかった場合でも子宮との着床のタイミングが合わず、やはり妊娠に至らない可能性が高まります。 このHatching障害の対応策として透明帯を菲薄化させる、もしくは一部切開、または全て取り除く事でHatchingを補助するAssisted Hatching(アシステッドハッチング:AHA)技術が開発され胚着床促進効果を向上させています。1990年頃よりAHA技術の論文が報告され始め、当院においてもその有用性を以前より論文や各種学会で報告をしてきました。

現在AHAには大きく3種類の方法があり、化学的方法、機械的方法、レーザー法になります。当院では安全かつ短時間で行うことができる機械的方法のPZD法(透明帯切開法)を行っています。PZD法は透明帯の一部を開口しHatchingの補助を行います。
当院での検討(下記の論文、学会発表)より凍結融解胚移植時にAHAを行うことが妊娠率向上へとつながることが分かったため、原則凍結胚を使用しての移植時にはAHAを行っています。 また一部新鮮胚移植でもHatching障害が疑われる胚に関してはAHAを行っています。

図2:AHA前(凍結時)
図2:AHA前(凍結時)
図2:AHA後(融解後AHA施行)
図2:AHA後(融解後AHA施行)

◎ガラス化凍結融解胚移植におけるAssisted Hatching(AHA)の有効性の検討
 生見早智子 他。
 日本臨床エンブリオロジスト学会誌 8巻 24-29 2005

◎PZD法の手技について
 菅かほり 他。
 第7回横浜ART研究会 2008

◎凍結融解胚盤胞期胚における2種類のアシステッドハッチング法(化学的透明帯菲薄化法/機械的透明帯切開法)が臨床成績に与える影響
 門前志歩 他。
 第51回日本哺乳動物卵子学会 2010